破裂 久坂部羊著

その昔、山崎豊子著『白い巨塔』を読んで感動し、進路は法学部と考えた。それほど『白い巨塔』には思い入れがある。
この小説は、現代版『白い巨塔』であるのだが、残念ながら緊張感はそれには及ばない。しかし、面白いことは間違いなく、昨今の医療事情、社会環境を的確に捉えているため説得力がある。特に、医療側と患者側の主張は、どちらにもそれなりの理由があり、善悪を付けがたいのが現状である以上、小説の中の登場人物にも善悪を付けにくく小説のターゲットがはっきりし難くなっている。医療の現状は、勧善懲悪となり得ないテーマであると言える。
著者は医者であるのでそれは承知の上で書き始めたことであろうが、やっぱりすっきりしない結末になってしまっている。読者は勝手だから、完全な白黒を求めてしまう。
次の作品、この先の物語も読んでみたくなる内容だ。
ちなみに帯の「医者は、三人殺して、初めて一人前になる。」の文言は恐ろしすぎる。渡辺淳一『白夜』なんかを読むと、満更嘘でもないと感じる。
破裂