孤高のメス

映画も見たいなと思っていたが、つい第1巻を手にとったら、もう止まらない。医療小説は嫌いでないし、もともと実医療の世界には興味がある。地元では、地域医療の崩壊をリアルに見てきたし、それによっての影響も我が身に受けたりもしてきている。興味を持たざるを得ない。

著者の大鐘稔彦は、外科医だったが、現在は僻地医療の現場に身を置く人。まったく知らずに読み始めたので、最初はもっと若い人だと思った。漫画世代の。例えば第1巻の最初に「アハハ、そうか・・・」という会話がある。表現じゃないよね、これ。極端な比較であるが、松本清張は絶対にこういう文章は書かない。例えば、「◯◯は、軽い笑いの後、自信なさ気に小さく頷いた。」みたいに。

まあ、でも全体的には気張っていない分、サクサクと読み進めることができる。第6巻の最後のあとがきを読むと、元は漫画の原作として書かれたものらしい。だからという訳ではないだろうが、漫画のようにテンポがいい。6冊をほぼ1週間で読んでしまう。

主人公の外科医当麻鉄彦は、大学病院の枠に入らない一匹狼的な存在なので、『白い巨塔』の財前五郎のように脂ぎっていない。控え目なのにメスを持たせれば難易度の高い外科手術を難なくこなしてしまう神の手。脳死が死として認められていない中で前人未到の脳死肝移植を成功させてしまう。それでもって、町長の娘とか看護師とか医療秘書とかそういう小奇麗な女性にも好かれてしまって、無茶苦茶羨ましいのだよ。

全体を通して感じるのは、医療の世界って生々しく怖いところだっていうこと。象牙の塔だけではなく、開業医などの身近な地域医療も含めてだ。当麻鉄彦みたいな医者が近くに入ればなんて真剣に思うもんね。続編も読みたいが、手に入りそうもない。残念。

ちなみに、ヲレの中での孤高本の筆頭といえば新田次郎の『孤高の人』であったが、今回は新たな孤高本にこの『孤高のメス』が加わった次第。いやはや、孤高本は、面白い。