わたしはこうして北朝鮮で生き抜いた!

脱北した元在日北朝鮮人が北朝鮮庶民の生活を書いている。帯の「北朝鮮にも生身の庶民がいた!」とあるが、そのとおりで、北朝鮮は、自分たちのように家族を持ち働き生活している北朝鮮の国民がいることを忘れてしまうような国なのだ。したがって、そういう意味では、異常な国の体制だけではなく、ちょっと原点に戻って庶民の生活を見てみようよというようなもの。

読みながら付箋を付けてみたので少し抜粋。

  • テレビは、娯楽を提供するものではなく、指導者への忠誠心を強化する手段であるから、ドラマは階級闘争をテーマとした戦争ものやスパイものばかりである。
  • 焚きつけ用の新聞紙は存在しない。北朝鮮にある新聞は党員向けのものだけである。これを燃やせば、反党分子としてひどい目にあう。
  • (燃料の)生木はかなり重いので、盗伐はたいてい若者が五人くらいで行う。
  • 盗伐に参加できないおばさんなどは、企業所の帰りに燃えるものは何でも袋に入れて持ち帰る。人の住んでいる地域の半径20キロくらいは燃えるものはまったくない状態になる。
  • 質に対する考えに乏しく、なんでも量で示されなければ評価されないのだ。その結果、どうしても無駄が多くなるが、その改善がいつまでもなされないという奇妙な社会ができあがるのである。
  • (効率的な作業をやって早く帰った)私は突撃隊の政治部に呼ばれた。誉められるのではなく、叱られにである。私のやったことは資本主義で、社会主義では、早く作業を終えた者が作業の進まない者を助けなければならない、というお叱りである。

こんなんで国が成り立っているのが凄い。その他全篇驚くべき社会が紹介されていて、実に興味が尽きない。どれもこれも救いようのない希望の無さでとても可哀想だけれども、一方ではたくましい北朝鮮庶民の姿も窺える。こんな実情を学者の目ではなく庶民の目線で書かれている本書は一読の価値あり。