エスピオナージ

警視庁外事課とロシア対外情報庁(SVR)の防諜活動・阻止捜査が舞台だが、クルクルと展開するストーリ進行と過剰な説明をしないスタイルが、かえって全体に緊張感を生み、生々しく感じる。

今時エスピオナージなんて無いだろうみたいな感覚が一般的な日本人の意識だろうが、こういう世界もある、日本も例外ではないという驚きが新鮮。著者がそういう意図であったかはわからないが、この小説を読んでみれば、性善説を前提とした外交は危険だろうなと思う程度のメッセージ性はある。

麻生幾は、やっぱり小説家というよりはジャーナリストだね。小説の形態を取っていても、取材から得た情報をあまねく伝えようとするばかり、話がどんどん拡大していく。全体の起承転結とか、読者の感情移入をどう処理しようかなんて考えていないのではないかと疑いたくなるような展開だ。ただし、文章テクニック的には、随分と読みやすくなったと思う。

このような小説は、読む側の位置によって受け入れがたく感じたり、あるいはどっぷりと浸かったりもするだろう。ヲレは、後者の部類のようだ。1900円と堪らなく高いが、値段相応に楽しめたようだ。