母の手紙

岡本太郎だ。「母かの子・父一平への追想」という副題。1996年の新装版第二刷であるが、Amazonで新刊購入。というよりも、この本は、1941年、太平洋戦争が始まる直前に刊行されたもの。その後、絶版になり、1979年に再刊され、ヲレが購入したのは、それに口絵写真を加えた新装・増補版。ふー、説明が長くなった。

序文を書いているのは、川端康成で、思わず畏まってしまう。

母かの子は、太郎がフランスに留学中に死去。親子が別れてから約10年間の手紙のやりとりが、太郎の解説付きで紹介されている。詳しくは述べないが、父一平も含め、芸術家一家の高次元の感性のぶつかり合いに脱帽。もの凄い親子だ。

その一つを紹介する。母かの子が亡くなったときの、父一平から太郎への電報が有名だ。一通目が、

カノコ病気 回復の見こみ

太郎は、あの思慮深い父がこのような不注意な知らせ方をするはずがない、ただごとではないことが起こったことを察する。
中一日置いての二通目が、

カノコ危篤 希望を捨てず

太郎は思う、「母の死は紛れもない」と。
で、翌々日の三通目。

カノコやすらかに眠る 気を落とすな あと文(ふみ)

電報が来た時点で、同じ時間の同じ間隔で届く電報。太郎は、父一平の技巧を見破り、電報を見る前に内容が判る。父一平の気遣いであるが、凄まじい。
数日後、父一平から電報。

僕は君のために生きる。すこやかにあれ、苦しければ電報打て

ありがたさに手を合わせる。太郎は、一人残った父を慰めるために電報を打つ。

母は我が内に生きつつあれば悲しからず。父は僕にわずらわされず仕事に生きよ。

凄まじい親子ではないか。