オリンピックの身代金
最近では、安心して読める(選べる)作家の一人である奥田英朗の新刊。
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8ポ2段組520ページ、1400枚。キッチリと書き込んだ渾身の作という感じであるが、残念ながら完璧じゃないだよなあ。東京オリンピックを題材としているので、昭和39年の世相が描かれている。ヲレがまだ1歳の頃だな。
ところが、全篇通じて昭和の時代が行間からにじみ出てこない。なんなんだろう、文章が新しいというか、時代を感じさせない表現なのか。随所に当時の流行や食べ物・服装などを取り上げているのだが、それらが取って付けたような違和感を感じる。無理矢理っぽい。登場人物の会話も現代風だ。
例えば、松本清張、藤原審爾、高木彬光、梶山季之、佐野洋の文章から感じさせる昭和の時代とは、全く違うのだ。そんなところが、非常に残念。ワープロで作っている限りは、もうそういう文章は書けないのだろうか。
とは言え、これだけの大書にもかかわらず、先に先にと読み進めるだけの面白さはある。派手さはないが、最後まで淡々と進むストーリには好感が持てる。さすが奥田英朗だという小説。