東京物語、鉄のライオン

奥田英朗著『東京物語』は、1978年4月から、重松清著『鉄のライオン』(『ブルーベリー(改題)』は1981年3月からが舞台となっている。ヲレもほぼ同時期に上京し、似たような生活をした。どちらも今考えると地味にのんびりしていたけれども、ある面では熱い時間も過ごした。懐かしい。

東京物語 (集英社文庫)

東京物語 (集英社文庫)

東京物語』について、文庫本の解説の中で「作者の分身として読むことは、読者に特権的に許される確信犯的"誤読"ではないだろうか」と書かれているように、奥田英朗の実体験から生み出されていることは容易に想像できる。行間から当時の空気が湧き出るような生々しさは、資料を読み込むだけではそう簡単に得られるものではない。主人公が少しずつ成長していく過程が著者の経歴と重なり、奥田英朗という直木賞作家がどうして出来上がっていったのかの知るためのヒントになる展開だ。単なる懐かしいだけでは勿体ない。極めて良質な小説である。

小説の前半、ジョン・レノンが撃たれ、キャンディーズの解散コンサートがストーリに組み込まれている。奇しくもキャンディーズのスーちゃんが亡くなった。それだけの時間が経過したと感慨深く感じる。ほんとヲレ、歳をとった。

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一方、『鉄のライオン』は、過去を振り返りながらの12編のショートストーリ。でも、それぞれのストーリは独立しているが一つの時代を描いている。面白いのが最後の「ザイオンの鉄のライオン」。著者自身のあとがきも交えての話、とっても洒落た展開であるが、著者自身が著者の言葉で著者や主人公が過ごしてきた時代の総括をしている。著者の言葉を借りれば「時代の質感」を描いたということ。なるほど。

東京物語』と『鉄のライオン』どちらにも共通するのは、未だに忘れないまったりとした気怠さだ。この気怠さ、一気に時代を遡る事が出来るよ。