極北クレイマー

まったくダメダメ小説。海堂尊といえば、『チーム・バチスタの栄光』のような傑作医療ミステリーを書ける人。現在も勤務医と作家の二足わらじ。なのにこの低レベルは何?今話題の地域医療を題材にすれば適当に書いても売れる(ウケる)とも思ったのか、あまりにも姑息で手抜き。

極北クレイマー

極北クレイマー

医者のくせに、これでは地域医療問題を軽く考えすぎているのでは、というよりも、考えていない。考える気がないのか、設定が破綻した夕張市まんまであって安直であるし、産科医療訴訟も実際のものを借りてきただけで、オリジナリティは全くない。ひどいものだ。

そもそも『極北クレイマー』という書名も何だ?クレイマーの部分がテーマになっていないし、書き込まれてもいない。

勤務医なのだから、経験から、体験から感じるものがあるだろうが。感じないの?それとも、地方医療なんかしらんわいとも言いたいのか。だったら書くなよ。医者であるから書けるものをテーマとして主張するべきじゃないの。表現手法でしょうが、小説は。それともビジネス。「先生、今話題の地域医療をテーマに書いてみませんか。きっと売れますよ。大丈夫、ばんばん広告出しますから」みたいにおだてて書かせたなだろうと邪推したくなる。ちなみに発行は、朝日新聞社(『週刊朝日』連載)、売れればいいのかと見識を疑いたくなる。

一番の悲劇は、この小説を読んだだけで地域医療の問題が理解できたと思い込んでしまう読者が出てしまうこと。その人たちは、これらの問題が自分たちのことと思わず何も考えなくなるよ、たぶん。著者と出版社の責任は重い。

ちなみに、ヲレにとって医者が書く小説のイメージ・レベル・期待としては、次の2つがあって、海堂尊にこれを期待したのが誤りだった。

山崎豊子著『白い巨塔』。医大・医学界における権力闘争を描いたものとして超有名な作品。テレビドラマも良くできていた。今はこの(医局の)世界も崩れつつある。

単なるエロ作家に成り下がってしまった感がある渡辺淳一の若き頃(昭和55年から昭和63年まで)に書かれた『白夜』シリーズ。

渡辺淳一は、医者から作家に転向しているが、医者を目指すところから、医大からの派遣医師、臨床医、医局、そして小説に偏向していく自分に対する戸惑いなど、若々しい文体で表している。これも時代を遡るので、現状とは異なってくるのだろうが、それにしても医者という世界が生々しく描かれ、それを知るには参考になるだろう。今の渡辺淳一しか知らないのであれば、是非読んでみてもらいたい小説だ。

以上、海堂尊には幻滅したという話題。