氷壁

 今年に入ってNHKで「氷壁」というドラマを放映している。

 『氷壁』と言えば、言わずと知れた井上靖の山岳小説の名作(昭和31年発表)。多分、三度目と思うが読み直してみた。
 時代を感じさせる地味なストーリ展開と文体が良い。人を描き、人生の縮図を表現しようとしている意図がさすがだ。

氷壁

氷壁

 随分前に、主人公の奥寺が最後に留まった奥穂高の温泉宿に泊まったことがある。露天風呂の中に雪をスコップでバサバサ入れてお湯を冷まして温泉に浸かった。気持ちよかった。

 ドラマでは、原作『氷壁』を原案と表現している。確かに、ストーリは全く違うものであるが、基本的な骨格の部分は採用している。例えば、ナイロンザイルとカラビナの違い。前穂高とK2の大きな違い。裁判の有無、時代背景などほとんど違う展開だ。あと2回の放映が残っているが、原作から想像するに、主人公奥寺の行く末は想像できる。

 普段、ドラマなど見ないので知らないのであるが、奥寺役の玉木宏という俳優はいいね。かっこいいし、実に奥寺っぽい。その他のキャストでは、やっぱりベテラン勢(伊武雅刀石坂浩二吉行和子)がいい味だしている。八代美那子役の鶴田真由は嫌いだけど。どうして奥寺が美那子に引かれていくのか、理解ができない。ちょっと、ストーリ展開が強引。本質は、山男と友情、登山用具の信頼性みたいなのを全面にだしてもらいたいなあ。

 原作『氷壁』では、実在のナイロンザイルによる事故を元に書かれている。そういう意味でリアルな問題である。ドラマが恋愛ストーリに趣が置かれることに抵抗ある理由の一つに、やはり原作に敬意を払うこともあるのだ。

 写真は、ヲレが持っている新潮文庫。割合新しいもので、もう一冊ふるい奴があったと思ったのだが・・・不明。