氷壁

井上靖著、新潮文庫
自分が生まれた頃に書かれた古い小説である。昨今の中高年登山ブームには閉口するが、この小説はまだ登山がダーティで一部の限られた人のものであった時代のものである。当時は新鮮で衝撃的な内容であったであろう。解説には恋愛小説と書かれているが、推理・社会派・恋愛・山岳・青春・友情等々複雑に緻密に絡み合った一言では分類出来ないほどの味が交じった良質の小説である。
主人公の魚津が最後に泊まったとされる新穂高温泉の宿に数年前に一泊したことがある。なぜ小説の中のモデルになったと判るかと言うと、小説が書かれた当時、その宿しか無かったからだ。井上靖も泊まったのだろう。そして、そこから見上げる北アルプスの山々の風景は当時と何も変わらないのだろう。一人、谷に向かって歩いていく魚津の姿が目に浮かんでくるようだった。お薦め度:95/100
氷壁 (新潮文庫)