裏切りのサーカス

サーカス=MI6=英国防諜局秘密情報部のこと。ストーリは、簡単に言えば、サーカスの中の裏切り者、つまりソ連の二重スパイをいろいろあって明かすというもの。原作者は、元MI6のスパイのジョン・ル・カレで、実体験、実話を元に書いたという。もちろん、制作にも関わっていて、妥協を許さないリアルを追求している。昔、『エスピオナージ』という映画を観た時も同じように感じたかな。

とにかく判りにくい。そもそも登場人物は、みんながプロフェッショナルなスパイなんで、一般人に判るような行動や言動はないし、そういうところの説明的な親切な展開はなく、言葉少なく、どんどんと話は進んでいく。判りにくいのがリアルなんだろうな。そりゃそうだ、防諜(スパイ)なんだから、判りやすい行動もペラペラ余分はおしゃべりもするはずがない。映画を観る側も、もう一瞬でも緊張欠いたら、すぐにストーリがわからなくなってしまうのだよ。

この判りにくくなってしまうのは配給側も織り込み済みで、公式サイトに「必読」という項目があってそこを開くと「鑑賞前:ご一読下さい。本作の徹底した<リアル>を楽しんで頂くため、以下情報を鑑賞前にご一読することをお勧め致します」とある。ヲレは、これと登場人物の相関図を印刷して、熟読して臨んだ。それでもあれあれ??となる時が多かった。予習してこなかった人かはわからないが、後ろの方で半分くらいから鼾かいて寝ている奴がいたよ、一度判らなくなってしまうと、もう戻れない。

日本語の翻訳も最低限で素晴らしい。登場する多くの人の呼び方も、ある時はファーストネームで呼び、ある時はラストネームで呼び、ある時はコードネーム(スパイの通称)で呼んだりするので、同一人物なのか別人なのか、あるいは組織の名称なのかわからない。筒井康隆著『ロートレック荘殺人事件』みたいに騙される。例えば、コードネーム「ティンカー」のパーシー・アレリンという人物は、「ティンカー」「パーシー」「アレリン」と使い分けられる。それも本人の映像が無いところで言われると誰だか判らなくなってしまう。映画館の中で何度、相関図を見ようかと思ったことか。相関図は、事前に頭の中に入れておくと、ストーリの理解が進むと思う。

冷戦時代のハンガリーイスタンブールや英国の薄暗い雰囲気がたまらない。登場人物は、余分な動きをせず、わずかな表情の変化や明暗による緊張感、決して派手ではないズームアップを多用したカメラワークなどで最高の緊張感を醸し出している。これは芸術ですよ。音楽にも陰と陽があって、過去と現在を行き来する展開と相まって、素晴らしい雰囲気を作り上げている。NHKドラマ『外事警察』も真っ青(レベルが違うか)

ジェームズ・ボンド(009)やイーサン・ハント(ミッション・インポッシブル)みたいな派手なシーンは一切無く、すべて淡々と静かに事実が積み重ねていく。伏線が伏線を呼び・・・そして最後には・・・という結末なんだが、もう一度、観てみたいと観終わった瞬間に思ったよ。映画館によっては、リピーター割引もあるらしい。

ふむ、マジ、もう一度、挑戦してみるかな。