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 行かずに死ねるか!

何気に立ち寄った書店で何となく購入した文庫本であるが、非常に楽しく印象深い。

著者は、世界一周95000kmを自転車で一人旅をした石田ゆうすけ氏。その筋では有名な方であろうが、ヲレはこの本を通じて初めて知った。旅に出発するところから帰国するまでの7年5ヶ月の記録だが、たかだか文庫本1冊にすべてそこに書ききれる訳ではなく、じつにさっぱりとした紀行文になっている。


                  
著者は、旅を脳天気に愉しんでいる。自分探し的な鬱屈した悲壮感がなく、根性物語でも見栄っ張りでもない。旅に出たいという純粋な道への興味だけだ。バイブル的な『深夜特急』とは明らかに色が違う。でも、『深夜特急』にならなくてもいいではないか。それぞれの旅があってもいい。

面白いのは、いろいろな国で同じような旅をしている日本人に会うのだが、またその先で再び出会ったりする。カナダで別れてメキシコのある街で偶然会ったりする。次はアフリカの小さな村でまた出会う。一人旅なのに、途中で知り合った数人で数ヶ月一緒に旅したり、誠に楽しそう。出会った時の喜びって文字に出来ないほどの感動だろうね。

でも、旅をしている間に、インターネットが普及し、アフリカの都市でもネットカフェみたいなところでメールで情報交換が可能となる。そうすると「あいつがあの辺にいるようだよ」と判ってしまって偶然の出会いがなくなってきてつまらないとも書かれている。南米やアフリカなどに未開の地がなくなり、悪路が舗装路になり、冒険ではなくこなす作業になっていくなど、一人で開拓をするような刺激的な旅することも難しくなってくるのだとわかる。

ヲレは、臆病だからこういう旅はできなかった。旅は嫌いではない。でも、国内のちょっとした旅行でさえ一人で出かけるようなこともなかった。随分と若い頃、浮谷東次罃の手記『がむしゃら1500キロ』を読んで、いつかはこういう旅をするぞ、と心に密かに誓ったりしたのだが、そういう憧れがあってもぜんぜん実行しない。言うばっかり思うばっかりで、誠に情けない。だから、この『行かずに死ねるか!』みたいな本を読むと、このような旅を実行してしまう著者の意志の強さとかその思い切りがとても羨ましいし、世界一周とは言わないがどうして自分は行動してこなかったのかと後悔をしたりする。

この歳になるとややもするともう仕方がないかと諦めの境地になったりする。でもね、時々こういう刺激を与えて思い直すことも必要ではないか。歳をとればそれなりの旅もあるだろう。もういいではないか、ちょっと日常から外れてプチ冒険をしてみようではないか。そんな風に想いながら、この本を読み終えたところである。勝手ながら著者には感謝をしたい。