壬生義士伝、勝負の極意

素晴らしい、久しぶりの借金しても読め本だ。新撰組ものについては、定番である司馬遼太郎池波正太郎子母沢寛も読んでいるが、浅田次郎はこうくるかと驚きを持って読み終わった。

壬生義士伝 4枚組 [DVD]

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歴史もの、幕末ものは久しぶりなのでリハビリを予て手にとったが、「おうおうこりゃ、有川浩読んでニヤニヤしている場合ではないぞ、たまにはこういう日本人魂的な本を読まなければいけないぞ」と若干反省。泣けないがぐっとくるシーンが多い。なぜなら、登場人物すべてに血が通っているから。人間を描くという意味では、逸品。今の社会に足りない、必要な精神を多々描き、非常に新鮮な気持ちになる。こういう小説を読むと、遠い昔に読み尽くした山本周五郎なんかも、あらためて読み返したくなるところ。

それにしても、明治、大正の時代って、よく考えてみれば、新撰組隊員の生き残りもいて、子母沢寛はそういう人からも取材をして小説を書いたし、その人たちはおそらく人斬りもしていただろう。平成の平和な時代に生きていると、そういうことに気づかないのだが、この小説は、そういった時代の変化を巧く取り入れて幕末からの大変革を描いている。

浅田次郎が、新撰組隊員 吉村貫一郎という実在はしたが詳細わからない人物を題材にしたことは正解だ。その判らない部分を自由に脚色して新しい人物像・人間関係を小説の中で構築ができる。だから、これだけの人間ドラマが掛けたのだ。歴史考証よりもドラマ優先、歴史書でなく小説なのだからそれも一興。読者を楽しませることがこの作家の喜びなんだろうな。

浅田次郎の小説は初めて読んだと思うが、書棚を少し探してみたら過去に『勝負の極意』というエッセイを読んでいた。さらっと読み返してみると、作家になるまで20年苦労している。この苦労が初めて書いた歴史小説でこれだけの機微な感情を描かせるのか。「浅田版・新撰組三部作」というものもあるらしいので、浅田次郎の小説、もう少し読んでみようか。