モダンタイムス

お気に入りの『魔王』の続編という位置づけだが、読んでみればそれ以上のスケールと面白さ。それにしてもだ。会話の妙、奥深さ、展開の巧みさ、魅力的な登場人物、どれもこれも伊坂小説ならではでマジ素晴らしい。一体どこからこういうアイデアがでるのか、このレベルの小説を供給し続ける力は、本物。

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

『魔王』から50年後という設定。でも50年経ってもあまり世の中は変わっていない。普通にサラリーマンは苦労しているし、家庭も同じ。面白いのは小説の中で「カセットテープを一度見たことがある」とラジカセが骨董品になっていて「ジョン・レノンって誰?」って若い奴に訊かれたりする。今でもそれに近いところにあるが、この小説ではそういうことで時間の経過を表現している。この辺もさりげなくて良い。

主人公の妻、佳代子のキャラが素晴らしい。最初は怖いだけだったけれども、後半は正直いって惚れた。最後まで何者かが判明せずに終わってしまっているが、これならまだ続編が書けそうだ。

検索をテーマに、事実であると思い込んでいる事実とか情報操作、物の見方・考え方、どれもレトリックではないがそれもありえると納得が出来る展開が面白い。『魔王』で中途半端に終わったところも少しは回収しているし、あの兄弟のイメージがこの『モダンタイムス』にうまく引き継がれている。ほんと巧いなあ。

それにしても、井坂好太郎が亡くなってしまったのは悲しい。遺書が「馬鹿が見る!」っていうのも彼らしい。本当に亡くなったのか?信じたくはないがそうであれば、心から冥福を祈る。