十二人の手紙

12人(実際は往復書簡などもあるのでもっと多人数)の書簡形式で進む小説。書かれた時期が30年ほど前なのでさすがに時代背景の古さを感じる。

十二人の手紙 (中公文庫)

十二人の手紙 (中公文庫)

しかしながら、人間の感情の隙間を突くような仕掛けには脱帽。書簡小説はパタパタと展開が変わるので、劇作家としては、感覚的には扱い易い形体ではないか。

一見、心のこもった手紙にも嘘が散りばめられる。人間って罪な生き物だなあ改めて感じる。読後感はあまりよろしくない。でも、さすが、言語学者なみの知識を持つ著者らしい仕掛けが面白い。こういう地道な作家を一人ひとりと失っていくのは悲しい。

井上ひさし氏は、DV問題が浮上してから、なんだかえらく評価が下がってしまったが、でも過去の文学的業績は変わるものではない。知の宝庫として高い評価をしたいもの。ちなみに私がもう20数年からにお借りしている遅筆堂というネイムは、間接的であるが故井上ひさし氏本人の了解済み。今となったら、本当に良い想い出。