小さき者へ、生まれ出づる悩み

有島武郎、さすがに巧みな文章で完成度高いです。明治・大正の文豪になんて全く失礼な言い方ですが、感動しています。

本の裏表紙に前回の読了月日が書いてありました。昭和60年7月18日、ほぼ24年前です。こんなに暑い日に読んだのでしょうか。その頃は、子供が近くで騒いでいれば、うるさいなあと疎ましく感じたものです。それでもうっすらと残っている記憶をたどると、当時もこの本を読んで感動をしたものです。

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

あれから子供を2人を育て、今では、日々子供の成長を楽しんでいます。ふと、本棚を眺めると、『小さき者へ、生まれ出づる悩み』の背が目に入りました。当時160円の薄い文庫本です。

短い小説ですが、父性愛に満ちあふれています。母親を失った子供たちに父親が伝え残す文章は、涙と勇気と誇りを与えます。そして私も、我が子に対する自分の気持ちも同じであると、時々確認しながら読んでいることに気がつきます。そこに感動があります。物語と実感情がリンクします。

小さき者よ、不幸なそして幸福なおまえたちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け、勇んで。小さき者よ。

創作ではなく私小説であることが、さらに感動を高めます。