銀輪の覇者

タイトルから判るとおり、自転車ロードレースを題材とした小説。ハヤカワ文庫で上下巻、たっぷりと楽しむことができる。「このミステリーがすごい 05年版」でベスト5になった本。

銀輪の覇者 上 (ハヤカワ文庫 JA サ 8-1)

銀輪の覇者 上 (ハヤカワ文庫 JA サ 8-1)

ユニークなのが、設定が軍歌の音が忍び寄る昭和9年だというところ。しかも、下関から青森まで日本を横断するという賞金レース。ここに、軍や特高、貧困にあえぐ村、宗教団体、ドイツ、任侠、ツール・ド・フランス経験者などなど様々な思惑や人間関係が絡まり、そして終盤に向かって解れていく。面白いですよ。

しかしながら、あくまでも自転車競技なので、それは今も昔も変わらずチームで、あるいは集団で空気の壁と戦うのは同じ。自転車競技としての戦術やシステムはしっかり描かれていて、決して違和感はないところがさすがだ。スポーツ小説として十分楽しめる。

苦しい。こんなに苦しいことはかつてなかった。だが、苦しさを感じるのはまだ自転車に乗っている証に他ならない。そして、誇りをまだ捨てていないことの証でもあった。

そうか、苦しくないと感じるときは、誇りを捨てたときなのか。辛いことだな。