男たちは北へ

羽田圭介著 『走ル』があまりにつまらなかった反動で、自転車を題材にした小説を探しては読んでいる。この風間一輝著『男たちは北へ』は、その一つ。

『走ル』と同じで、主人公は東京から青森まで自転車で北上をする。『走ル』はただ走っただけであるが、『男たちは北へ』では、しっかりと物語がある。いや、当初はないのだが、北上するにつれ主人公の意に反して事件に巻き込まれていくのだ。

男たちは北へ (ハヤカワ文庫JA)

男たちは北へ (ハヤカワ文庫JA)

面白いのが、主人公はあくまでも自転車で北上することに徹しているところ。周りで起こる事件には関心を持たず、ハードボイルドなスタンスで黙々とペダルを回し続ける。すごく格好良い。そして、旅の途中で出会う男たちとの友情とか仲間意識が芽生えたりする。

著者もこよなく自転車を愛するローディであり、自転車乗りではわからない共感が感動的に描かれている。例えば、延々と続く上り坂。息絶え絶えで無心にペダルを回し続ける心情など実にリアルで文学的。

桐沢は、『どんな希望も持つな』と言った。私も持つまいと思った。しかし無理だ。希望を持つまいと思っても、少しだけ、あれが頂上かもしれないと思ってしまう。だが違った。少しだけ希望を持ったから、失望も少しだけで済んだ。

1989年書き下ろしで、デビュー作品。著者は、1999年に死去。